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星組トップスター・礼真琴の献身さに心打たれる、「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」

2025.6.27(金)

「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」('22年星組・宝塚・千秋楽)は、ジョージア(旧グルジア)を舞台にした作品だ。並木陽の小説「斜陽の国のルスダン」に演出家の生田大和が着目し、丁寧な演出でタカラヅカらしい舞台に仕立ててみせた。

黒海とカスピ海に挟まれた国・ジョージア王国は12世紀末〜13世紀初頭のタマラ女王の治世に最盛期を迎えた。本作は、タマラ女王の息子であるギオルギ王(綺城ひか理)が治める時代から幕を開ける。ルーム・セルジュークから人質としてジョージアに送られてきた王子(礼真琴)は、イスラム教からキリスト教に改宗させられ、ディミトリという名を与えられていた。彼はギオルギの妹ルスダン(舞空瞳)と共に育ち、互いに思いを寄せ合っていたが、ルスダンが嫁ぐ頃には別れねばならない運命を覚悟していた。

ところが、モンゴルのチンギス・ハーンのジョージア侵攻が二人の運命を大きく変える。深手を負ったギオルギ王はルスダンに、ディミトリと結婚し女王としてこの国を守るよう言い残して息絶えた。

ディミトリは、女王ルスダンとジョージアのために生きることを心に決める。だが、廷臣らは副宰相アヴァク・ザカリアン(暁千星)を筆頭にディミトリに不信を抱く者ばかりだった。さらに、モンゴルによって国を奪われたホラズムの帝王ジャラルッディーン(瀬央ゆりあ)が、新たな国土を求めてジョージアに攻めかかる。内憂外患に晒される女王ルスダンのため、ディミトリは、ある決断に至る...。

主人公ディミトリを演じたのが、現在、東京宝塚劇場にて上演中の「阿修羅城の瞳」「エスペラント!」をもって退団する星組トップスターの礼真琴だ。歌、ダンス、芝居と三拍子そろった実力派の礼は、「ロミオとジュリエット」や「1789」などの海外ミュージカルや、三谷幸喜の映画を舞台化した「記憶にございません!」などの主演を任されることが多く、本作も原作を基にした話題作の1つとなった。

この作品は、舞空瞳演じるルスダンの成長物語であると同時に、ルスダンのために生きるディミトリの愛の物語である。無邪気な少女から一国を背負う女王へと成長していくルスダンを、何があってもブレずに支え続け、愛を貫くディミトリ。その生き様を、礼は強く気高く美しく演じてみせる。

「外憂」としてルスダンに迫るジャラルッディーン(瀬央)は勇猛であり残虐であり、それでいて懐の深い帝王ぶりを見せる。孤独なディミトリの一番の理解者が実は亡国の王たるジャラルッディーンだったのかもしれないことを感じさせる。

いっぽう「内憂」の中心人物、アヴァク・ザカリアン(暁)は原作から大幅に改変され、存在感を増している。月組から組替えしてきた暁にとっても演じ甲斐のある役となっており、一皮むけたところを見せてくれる。

ディミトリとルスダン、二人の生き方の手本のような存在が、ギオルギ王(綺城)とバテシバ(有沙瞳)だ。平民出身ながら王に愛されたバテシバは、王のため身を引き、王もまたそれを受け入れる。出番は最初だけだが、重要な役割だ。

モノトーン系でまとめたシンプルなつくりの舞台装置の中で、リラの花の紫色が目を引く。時おり現れるリラの花の精たち(小桜ほのか・瑠璃花夏・詩ちづる)が、物語に希望の光を投げかけるが、不気味な姿の物乞い(美稀千種)もまた、歴史の生き証人のように姿を現す。ノグチマサフミ振付によるジョージアンダンスも本作の見どころだ。

国も時代も決してタカラヅカに馴染みがあるわけではないのに、どこか素朴な懐かしさを感じる、そしてジョージアという国への興味をかき立てられる作品である。

文=中本千晶

放送情報【スカパー!】

ディミトリ~曙光に散る、紫の花~(’22年星組・宝塚・千秋楽)
放送日時:2025年7月6日(日)21:00~ ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります