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映画監督・中川駿の流儀『絶対に僕が正しいとは思わない』映画監督までのみちのりとは?

2025.6.26(木)

中川駿監督
中川駿監督

公開中の映画『 か「」く「」し「」ご「」と「』で監督を務めた中川駿。

NCW(ニューシネマワークショップ)という映画の宣伝・制作を学べる映画学校の卒業生である中川は、『カランコエの花』や『少女は卒業しない』などを手掛けた。

HOMINISでは中川駿監督にインタビューを行い、映画監督として活躍されるに至った経緯や、監督として最も大切にしていることなどをたっぷりと語ってもらった。

――映画監督を志したきっかけはありますか。また、実際に映画監督として活躍されるに至った経緯をおきかせください

「もともと映画の道に進む気はなく、イベントごとが好きでイベント制作会社に入り、学会やシンポジウム、展示会、就活の合同会社説明会などのイベントをやっていたんです。決まったものを毎回作って提供する仕事じゃなくて、ひと案件ごとに違うものをゼロから立ち上げて作る仕事が好きでした。
イベントの業界は映像と遠からず、ステージで映像を流したり映像制作に携わることがあり、映像の方が楽しそうだなと思ってきました。イベントはライブコンテンツなので、多少のバグが起きてもパワープレーで乗り切らなきゃいけないところがあって。そういうダイナミックな面白さはあるのですが、あまりディテールにこだわれないという負の側面もありました。
一方で、映像の世界は"テイク2"が許される世界ですし、細かい部分を突き詰められるので、映像の方が性に合ってると思い、勉強してみたいと思うようになりました。

イベント制作会社を退職して、映画学校を探している時にニューシネマークショップ(NCW)に出会って、映画の勉強をさせてもらって、映画の面白さを知って、今に至ります。もともと、あまり『映画をやるぞ』というタイプの人間ではなかったんです。学生時代もほとんど映画を観ておらず、好きな映画は今とは全然作風が違う『アルマゲドン』でした。NCWに入ると、やっぱりシネフィルの人が多くて『映画何が好き?』という会話をしても全然わからず、映画について全然知識がなかったのですが、NCWでいろいろ教えてもらって楽しさを知りました

イベント制作会社は、円満に退職しました。就活系のイベントは、繁忙期と閑散期の差が如実に分かれているので、繁忙期だけイベント制作会社で社員として働いてお金を稼いで、オフシーズンにそのお金で映画を撮る、ということを続けていました。一応、肩書きとしてはフリーランスのイベントディレクターという形で働きながら、NCWに通っていました」

NCW(ニューシネマワークショップ)出身の中川駿
NCW(ニューシネマワークショップ)出身の中川駿

――NCW(ニューシネマワークショップ)出身ということですが、今と結びついていると実感することや、今の監督業に活きていると感じることはなんでしょうか

「NCWで一番記憶に残っていることは、ありがたいことに自分の企画を選んでいただいて、監督をした作品を"ムビハイ"(=『MOVIES-HIGH』。NCW[つくる]コースの実習作品やOB/OGがつくった作品をー般客に披露する映画祭)で上映したことです。
当時の僕は映画を全然見ていなかったので、『良い映画』がどういう映画なのか自分の中で基準を持っていなくて、自分であまり面白いと思わない『良い話』のようなストーリーを『こういう感じかな』という感じで作っちゃったんです。それをムビハイでお客さんの前に届けなきゃいけないとなった時にすごく嫌だったんです。当時教えてくださっていた方に『上映して欲しくない』って言ったくらい嫌でしたが『それも含めて経験だから』と言われて上映しました。やっぱり自分が納得いっていない作品でしたし、お客さんのリアクションもあんまり良くなく、それがめちゃくちゃ悔しくて。NCWで映画を作って、実際にお客さんの前に届けるという1つのフローを最初から最後まで経験させてもらったことで、自分の無力さを知り、自分の現在地を知りました。映画をもっと知らなきゃいけないし、勉強しなきゃいけないと思いました。
それからものすごい数の映画を観始めて、自分の中で統計をとりました。『こういう作品が良いって思いがち』みたいな傾向を見つけて、その傾向を基に『じゃあ、これが良い映画なんだ』と自分の中で指標を作って、それを目指して作品を作るようになって。その後、賞レースで勝つようになって今に至るので、"自分の無知さを思い知らされた経験"というのが、NCWで得た一番の財産だったかなと思います」

――『これが良い映画だ』という軸はどういったものなのでしょうか

「カテゴリーでいうとヒューマンドラマで社会問題を取り扱ったもので、露骨に感情を押し付けられるというより、じんわり感じて、心の琴線に触れられるような繊細な映画が好きだなと思います。特に一番リスペクトしている監督は、イランのアスガル・ファルハーディー監督です。その監督は、ストーリーを作る上での手法として、嘘をついてたり隠し事をしていたりする登場人物を入れるんです。そういった登場人物をいれることによって、表面的ではない深みが生まれるので面白いなと思っています」

――NCWで学ばれているなかで、一番の思い出をお聞かせください

「NCW[つくる]コースのアドバンスでは、みんなが脚本を書いて、選ばれた人しか監督できないので、監督をやりたかった他の人たちにスタッフとしていろいろお願いしなければならず、正直すごく気を遣ったんです。何かをお願いするにしても、『自分がこうしたい』というより、みんなが納得のできる作品を作ってみんなで納得感を味わいたい、自己満足にはしたくないという思いがありました。その感覚は割と今もあって、『みんなでつくる』という意識がそこで培われたと思います」

中川駿監督
中川駿監督

――監督として最も大切にしていることを教えてください

「明確にひとつあって、『絶対に僕が正しいとは思わないこと』です。特に、僕は高校生ものを作ることが続いているのですが、自分が高校生だったのは20年以上前なので、自分が思う高校生が今の高校生とは乖離してるかもしれない。常に『自分はもしかしたらおかしいことを言っているかもしれない』という意識のもとでコミュニケーションをとるようにしています。最初の役者との顔合わせの場でも、『僕は、僕が絶対正しいとは思ってないからおかしいと思ったら言ってほしい。君たちが演じておかしいと思ったら言ってほしい。希望があったら取り入れるので、是非話し合いながら作りましょう』という会話をして、作品を作っています。高校生ものじゃないにしても、『いろいろな人の意見を取り入れて作ること』、『僕が思ったものを作る』っていうマインドセットでは望んではいないということが一番大事にしていることです」

映画『か「」く「」し「」ご「」と「』
映画『か「」く「」し「」ご「」と「』

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会

――5月30日に『 か「」く「」し「」ご「」と「』が公開されました。改めてどんな映画になっていますか?

「すでに公開しているのである程度ネタバレも含めて話をすると、人の気持ちがちょっとだけ見えるという能力を持った5人の男女の話なのですが、能力が主軸にあるお話ではなく、相手の気持ちや、相手にどう思われてるのが、すごく気になって、それに合わせて自分の振る舞いを変えてしまったりなど、そういうところで思い悩んでしまう10代特有の繊細な心情みたいなところを描いた作品です。
なので、あまり『能力もの』という風に見られないように、能力はあくまでもオプションの1つであって、精神描写みたいなところを手厚くしていくように望みましたし、見た人の感想でも『能力ものだと思ったら結構深い内容で、油断して観に行ったけど楽しめた』と言ったレビューが結構上がってるので、それは良かったと思います」

――映画をこれから観る方にメッセージをお願いします

「人の気持ちって見えないじゃないですか。一方で、自分の気持ちは、当然わかるわけです。心の中でいろいろ考えたり、嫌なことも、人には言えないようなことも考えたりするけど、人の気持ちは見えないから、ネガティブなことを考えちゃうのは自分だけなんじゃないかな、とすごく思い悩んでしまう、自信をなくしてしまう10代の子たちのお話で、それって特に今のこのSNS社会に通じるものだと思っています。SNSはみんな自分にとって都合のいいものしか載せないから、そういうもので他の人の生活を見ていると、みんな煌びやかな生活をしてるのに自分だけこんな生活をしていておかしいのかなと感じて自己嫌悪になってしまうみたいなところがあると思います。
そのSNS社会のメタファーというか、それを能力みたいなところに置き換えて描いている作品なので、本当に今の時代にとっていろいろな人に届く作品だと思いますし、いろいろな人に共感してもらえると思います。
そろそろ公開が終わっていくかもしれないので、ぜひ早く観て欲しいです!」

公開中の映画『 か「」く「」し「」ご「」と「』で監督を務めた中川駿
公開中の映画『 か「」く「」し「」ご「」と「』で監督を務めた中川駿

文=HOMINIS編集部

リリース情報

NCW概要
2025年に29年目を迎えるニューシネマワークショップは、映画を「つくる人」と「みせる人」を、どこよりも早く確実に養成する映画学校。

10月から始まる新学期に向けて、6月より説明会を順次開催!
オンラインでの参加も可能なため、忙しい方や遠方にお住いの方も気軽に参加可能。

コースについて詳しくはHPをクリック
【NCW公式ホームページ】https://www.ncws.co.jp/

映画『 か「」く「」し「」ご「」と「』
大ヒット上映中
https://movies.shochiku.co.jp/eigakakushigoto/