綾野剛×柴咲コウ『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』初共演で築いた信頼関係
2025.6.26(木)

第6回新潮ドキュメント賞を受賞した福田ますみのルポルタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫)を、『悪の教典』『怪物の木こり』などを手がけた三池崇史監督が映画化した『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が、6月27日(金)に公開される。
日本で初めて"教師による児童へのいじめ"が認定された、20年前の衝撃的な事件。報道により"史上最悪の殺人教師"と断罪された男は、法廷で無罪を訴える。世間の空気、供述の重み、そして一人の人間が背負わされる「真実」とは何か。センセーショナルなテーマが飛び交うドラマを、豪華俳優陣の競演でスリリングに描き出す衝撃作だ。
主人公である小学校教諭・薮下誠一を演じるのは綾野剛。薮下に対し息子が体罰を受けたと告発する母親・氷室律子役には柴咲コウ。今作において、綾野と柴咲がどう作品と向き合い、どう真実を体現したのか――演技への信念、役作り、現場での緊張感、そして三池監督との再会を語ってもらった。
――まずは最初に、脚本を読んだときの第一印象について聞かせてください
綾野「とにかくワクワクしました。登場人物それぞれの視点が異なり、誰もが自分の事象を語っているという構造と、"共演者との総当たり戦"といいますか、次々と向き合う人物や事柄が変わり、そのたびに全力で挑むという、まるでトーナメントのようであり、ノーガードの打ち合いのような生身での真剣勝負。そういう現場は本当に稀有ですし、滾りました」
──序盤は学校での撮影から始まったとお聞きしましたが、初日からその"総当たり戦"は始まっていたんですね
綾野「初日は光石(研)さんと、大倉(孝二)さんとのシーンでした。すでに一回戦目からタフな試合が始まる感覚を覚えました。しかも、どのお相手とも対話がしっかり描かれている。受け身になっていても、言葉の応酬の中でも、常に"生き抜く"ことが求められます」
──柴咲さんはいかがでしたか?
柴咲「脚本を読んでまず『この人物の言葉は、どこまで本当なんだろう?』という疑問が自然と湧きました。でも律子自身は、自分が語っていることを全く疑っていない。それが一番怖いなと思いましたね。どんなに突拍子もない供述でも、本人はこれが真実と信じているんです」
──律子の供述から物語が始まる構成ですが、演じるうえでどのようなことを意識されましたか?
柴咲「意外に思われるかもしれませんが、律子は誰かを罠に嵌めようとか、騙そうとか、そういう意図を持っているわけではないんです。むしろ自分は当然のことを言っているというスタンス。その真っ直ぐさがかえって怖さを生んでいるとも思います。なので、薮下先生とのシーンなんかは、全力で"受ける"ようにしました。相手の反応を受け止めながら、自然と出てくる言葉に任せましたね」
──お二人は今回が初共演ですが、スクリーン越しにはそうとは思えないほど自然で、かつ火花を散らすような芝居が印象的でした
綾野「現場での柴咲さんの役へのアプローチや姿勢にとても魅了されました。精度が高く、迷いがなく、それでいて自然体。なにより芝居の"速さ"に驚きました。ノーモーションで見えない場所から最高速度で拳が飛んでくる感じ。こっちが構える前に、もう打たれている」
柴咲「それはお互い様ですよ(笑)。綾野さんも、一瞬で現場の空気を変える力を持っていらっしゃるので、自然とこちらも引き上げられる感覚がありました。言葉を交わさなくても、共に空気を感じて、信頼して委ねられるというか。だから、初共演なのに、すごくやりやすかったです」


──今作では、視点の切り替わりが作品の軸になっています。お二人はその"見え方のズレ"をどう表現されたのでしょうか
綾野「ある種の"演じ分け"はしていません。二重人格という事ではなく、同一人物である事が大切で、声の質感も大きな変化を取り入れず、言葉の取り扱い方が異なる、という事を意識しました。言い回しといいますか。もうひとつは、お互いの受け取り方のズレです。例えばあるシーンで舌打ちする描写があるのですが、律子にとっては違和感や嫌悪に見える。でも薮下にとっては『今川焼きが歯に詰まっていただけ』なんです。それくらい、細部にまで"ズレ"が潜んでいる。その絶妙な違和感の連鎖が、物語をより深く濃くしていくのだと思います」
柴咲「私は"視点が変わったから演技を変える"というよりは、律子自身がずっと同じことを信じているという前提で演じていました。もし供述が事実と異なっていたとしても、彼女にとってはそれが真実なんですよ。だから、演技のトーンも基本的には変えていません。ただ、観客がそれをどう受け取るかはまったく別の話で、そのズレが面白いとも思います」
──三池監督との現場はいかがでしたか?
綾野「三池さんは"答えを作らない"監督です。役の生き方をフレキシブルに受け止めてくださり、微かな変化にも気づいてくれます。その眼差しが温かく、とても鋭い。その寒暖差がとても心地よかったです」
柴咲「三池監督は決して多弁ではないけど、ちゃんとすべて見ているんですよね。裁判のシーンでも、どこにも感情移入しないように中立の視点で撮影されていて。それがかえって不気味で、どこかドキュメンタリーを観ているような感覚にもなりました」
──三池監督から印象に残っている言葉や、特に心に残っているやり取りがあれば教えてください
綾野「監督が『面白いものができたよ』ってぽつりと言ってくださって。それだけで、全てが報われたような気持ちになりました。三池さんは多くを語らない。でもそのぶん、一言がすごく重くて」
柴咲「私もそう思います。『あ、今のOK』とかも、本当に必要なときしか言わない。逆に"何も言わない"ときの信頼感というか、任せられているんだなという安心感がありましたね」
綾野「初めての三池組から17年を経て、またこうして一緒に作品を紡ぐ事ができたことに感謝ですし、続けてきて良かったと、心から思います」
──撮影現場でのエピソードについてもぜひお聞きしたいのですが、特に印象に残っている瞬間や、今でも思い出される場面はありますか?
綾野「柴咲さんとの家庭訪問のシーンです。あの場面が全ての始まりです。芝居的に言えばテーブルトークなのですが、律子さんのリズムと気迫の凄みをそのまま体感してしまい、終わったあとしばらく呆然としてしまって。芝居の中で、理屈じゃなく"気圧される"という感覚を久しぶりに味わいました。たとえるなら、会話をしているつもりが、気づいたら全身を使って格闘していたような。あのテーブルを挟んでのシーンは、お互いの間合いや呼吸を"削り合う"ような緊張感があって、何度やってもゾクゾクしました」
柴咲「私は、教頭先生たちとのやり取りも印象的でした。あの校長室の空気って、どこか現実っぽさがあって、『こういう人、いるよね』って思わせるような絶妙な圧があったんですよ。撮っているときも『これは絶対、観ている人もモヤモヤするな』って(笑)。それが逆に心地よかったです」
──今回の役作りにあたって、衣装やビジュアル面でのこだわりはありましたか?
柴咲「髪をすごく伸ばしました。とにかく"重さ"がほしかったんですよね。実際、髪がツヤツヤで長くなると、律子としての立ち居振る舞いが変わるんです。あまり表情を動かさず、髪が顔にかかる瞬間ですら感情を伝えるような、そういう"静の演技"に向いている外見にしたかった」
綾野「僕は"平易さ"です。薮下という人物が持つ"普遍的な日常"を大事にしたくて。だからこそ、彼が置かれた状況の異常さが際立つと想像できました」
──最後にこの作品を通してお客さんには何を感じてほしいですか?
柴咲「人って、自分が見たいように世界を見ているんだとあらためて思わされる作品でした。そして、それがいかに危うくて、同時に避けられないことか。だからこそ、この作品を観て『あなたはどう思った?』と誰かと話してもらえたら、それが一番嬉しいです」
綾野「本作を存分に楽しんでください。ヒューマンからホラー要素まで、あらゆるジャンルのアンサンブルでもあり、それぞれの生き様をエンタメに昇華した三池崇史監督最新作です。その上で、ご自身の目で見て、足で立って、判断された事が、観た方それぞれの"物語"として心のどこかに残して頂けたなら、これ以上ない喜びです」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
映画情報
『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』
6月27日(金) 全国公開
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
出演:綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、大倉孝二、小澤征悦、髙嶋政宏、迫田孝也、安藤玉恵、 美村里江、峯村リエ、東野絢香、飯田基祐、三浦綺羅、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫
監督:三池崇史
©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会
-
舞台女優・天海祐希、降臨!劇場を制するスターオーラに息を呑む...「鎌塚氏シリーズ」の期待を裏切らない面白さ
提供元:HOMINIS6/27(金) -
大人かわいい、最強ビジュアルの深津絵里&堤真一が不器用すぎる恋を展開した「恋ノチカラ」
提供元:HOMINIS6/27(金) -
星組トップスター・礼真琴の献身さに心打たれる、「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」
提供元:HOMINIS6/27(金) -
上川隆也演じる金田一のロマンスも描かれる!?「金田一耕助ファイルII 獄門島」は必見
提供元:HOMINIS6/27(金) -
綾野剛が黒木華と体現する一風変わった恋愛模様!石井岳龍監督が手掛けた異色作「シャニダールの花」
提供元:HOMINIS6/27(金)