映画「愚行録」にみる満島ひかりと妻夫木聡の笑顔の奥の狂気--
2025.6.5(木)

今後の日本映画界を背負っていくと言っても過言ではない俳優の満島ひかりと妻夫木聡が兄妹役で共演した映画「愚行録」。劇中、妻夫木と満島は、笑顔の奥にある圧倒的な闇に驚愕を覚えるほどの演技を見せている。

(C)2017『愚行録』製作委員会
■不安を想起させる満島ひかりの目の芝居
本作は、第135回直木賞の候補になった貫井徳郎の同名小説を、「ある男」で第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ6冠を獲得した石川慶監督が映画化。石川監督にとって、本作が長編デビュー作となった。
物語は、エリートサラリーマン一家惨殺事件を追う週刊誌記者と、自分の子供を虐待してしまい罪に問われている女性の視点が平行に進むなか、徐々に二つの事件が絡み合っていくという展開になっていく。
週刊誌記者の田中を演じるのが妻夫木。田中の妹で、我が子を虐待したという罪に問われている光子を満島が演じている。
サラリーマン一家殺害事件を追うというミステリー的な要素がありつつ、本作に登場するキャラクターたちは、パブリックに見せる顔とは違う面を持っており、本音と建前を使い分けながら生きていく姿を描く人間ドラマ的な側面が強い。
まず登場する光子は、兄である田中と接見室で穴の開いたアクリル板越しに対峙する。その場面で視聴者は光子が何をしてどんな罪に問われているかという情報がほぼないが、そこで見せる満島の、焦点の合っているのかどうかわからないようなうつろな目と、口先だけでしゃべる人への不信感を表現しているような演技で「これは大変なことが起きるのかも......」という不安をあおる。

(C)2017『愚行録』製作委員会
その後、話はサラリーマン一家殺害事件を追う週刊誌記者である田中の視点で物語は進んでいく。その田中自身も、かろうじて社会性は保ちつつも、どこか歪んだ暗さを持つような佇まいで、淡々と事件を追う。仕事場の上司は、実妹が新聞沙汰の事件を起こし「心中穏やかではないんだろう」と田中の暗さを位置づけるが、それだけではない闇をしっかりと奥に潜ませている妻夫木のさじ加減は絶妙だ。
田中の調査によって、品行方正で皆からの憧れの存在だった夫婦の裏の顔が徐々に暴かれていく。そして「あの夫婦を殺したいと思っている人はたくさんいる」というような相手が次々と登場するなか、田中や光子と一家殺人事件の接点が浮かび上がってくる。田中の取材の際に登場するキャラクターを演じているのが、松本若菜、松本まりか、臼田あさ美、中村倫也、眞島秀和など演技派俳優たちというのも、物語を分厚いものにしている。
■爽やかなパブリックイメージを一転させる妻夫木聡の破綻が漏れ出る笑顔
物語中盤からサスペンス色がグッと強くなってくるなか、光子や田中が、終始暗い影を落とす表情である理由も明らかになってくる。この時点で視聴者は、二人の心の奥にある闇への不安を覚えていくのだが、さらにその不安を恐怖に感じさせるのが、光子と田中がふと浮かべる笑顔。
まず満島は、精神科医で独白を始める。自らの複雑な過去を淡々と、時には無機質な笑顔を交えながら語る演技は、その後にとんでもないことが起きるのか...と、作品を観ている側にバッドエンドを予感させる。特にふと笑みを浮かべる奥に潜む絶望と狂気は、瞬時に彼女の壮絶な人生を想起させるほどの威力だ。
また、ギリギリのラインで社会性を保っていた田中も、徐々にその感情に破綻をきたし、時より笑顔を見せる。その笑顔は、普通を保とうと心の奥底にしまい込んでいたどす黒いものが漏れ出ていくような恐怖を予感させる。
ストーリーテラーとしての役割を担う田中は、最後まで破綻してはいけない人物。前述したが、そのギリギリを攻める妻夫木の演技、それを演出した石川監督。のちに「ある男」で高い評価を受けたタッグが織りなす狂気の人間物語をぜひ堪能してもらいたい。
文=磯部正和
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