研ナオコ×岡﨑育之介監督、初共演で築いた信頼関係 映画『うぉっしゅ』が映す"家族と記憶"を語る
2025.5.9(金)

認知症の祖母を介護することになった孫と、"毎日が初対面"のように生きる祖母。映画『うぉっしゅ』は、そんな切実なテーマをユーモアと優しさで包み込みながら、誰にでも訪れる"記憶"との向き合い方を描いた意欲作だ。
脚本・監督を務めたのは、自身の父方の祖母との実体験をもとに物語を紡いだ岡﨑育之介。主演には研ナオコを迎え、9年ぶりの映画主演作として挑んだ。今回は岡﨑監督と研ナオコにインタビューを実施。「忘れているから忘れられていく」という作品の根幹にある思いや、"何もしない"ことを演技の軸に据えた役作り、そしてお互いへの印象と現場でのやり取りまで、たっぷりと語ってもらった。
――まずは岡﨑監督にお伺いします。今回の作品には、ご家族の体験が反映されているというお話もありました。特に認知症のご親族にまつわる実体験が影響している部分があると伺ったのですが、そうした個人的な経験を作品に反映しようと思った経緯について、教えていただけますか
岡﨑「僕の父方の祖母が、5年ほど前から認知症で、世田谷区の老人ホームに入っているんです。最初はまだ会話も成立していたんですけど、年々症状が進んで、ある時を境に僕のことも完全に忘れてしまいました。名前はもちろん、顔も覚えていない。会いに行っても曖昧な言葉を返されるだけで。ああ、もう"僕"という存在は、祖母の中にないんだなと思い知らされたんです」
――経験としてすごくよくわかります
岡﨑「そこで『これって意味あるのかな』って思ってしまうこともあって。話しかけても伝わらないし、記憶には残らない。でも、それでも"行かなきゃいけない"という感情が消えなくて...その曖昧な感情をずっと抱えていたんです。ある日、取材も兼ねて祖母に会いに行こうと思って、面会予約を11時に入れたんですが、起きたら12時で...。自分でも驚きました。普段は、絶対に寝坊なんかしないのに」
――大事な約束を寝過ごしてしまった
岡﨑「それが、ものすごくショックだったんですよね。祖母が僕を忘れてしまったことばかり気にしていたけど、実は僕の方が、祖母のことを日々の中で少しずつ後回ししていたんじゃないかって気づいて。僕が祖母を意識しなくなったから、祖母も僕を忘れたんじゃないか。そんなふうに感じてしまったんです。それってすごく残酷だけど、すごく人間的でもあって。だからこの作品には『忘れているから、忘れられていく』という感覚を軸にしようと決めました」

(C)役式
――その感覚はハウスキーパーのセリフにも込められていましたよね
岡﨑「はい。あれは、自分の中にずっとあった違和感のようなものを言葉にしたものです。最初は『認知症の祖母に会いに行っても無意味なのでは?』と思っていた僕自身への"問いかけ"でもあるんです」
――私自身、映画を観終えたあと、思わず祖母に電話をかけました。作品に背中を押された気がしたんです
岡﨑「その言葉が何よりうれしいです。本当に、誰かが誰かを思い出すきっかけになれたなら、それだけでもう十分です」
――では、主演に研ナオコさんを迎えた理由を教えてください
岡﨑「認知症の祖母を介護するという題材なので、どうしても"重たくて真面目"な社会派作品を想像されがちだと思うんです。でも僕は、もっとポップに、もっと明るく、観終わったあとに温かい気持ちになれる映画にしたかった。そう考えたときに、誰よりも柔らかくて、でもどこか奥行きのある存在感を持った方......それが研ナオコさんでした。あの独特の空気感は唯一無二で、『この作品には絶対この人だ』と思いました」
――研さん、オファーを受けたときはどう感じましたか?
研「まず『私でいいの?』って思いましたよ。女優さんなんてたくさんいるのに。監督も若い方だったので、『売れてない監督からのオファーなんて逆に面白そう!』って(笑)。それに、私を指名してくれたことがすごくうれしかったですね」
――研さんから条件も提示されたと伺いました
研「妥協しないでくださいって言いました。私が出るからって、監督が遠慮してワンテイクでOKとか出すのは絶対にやめてほしい。自分の作品なんだから、最後まで責任持って撮ってほしい。そうでなければ私は出ないと。若い監督だからこそ、そこはちゃんとやってほしかったんです」
岡﨑「その言葉で背筋が伸びました。本当にありがたかったです」

(C)役式
――認知症の役ということで、何か特別な役作りは?
研「なにもしてません(笑)。監督に『何も考えないでください』って言われたので、本当に考えずに現場に行って、出たとこ勝負で演じてました」
岡﨑「認知症って、役作りが難しいと思うんですよね。医者の役なら勉強すればいいけど、認知症は"考える"ことができない状態だから、むしろ"何もしない"ことが一番の役作りなんです。研さんには『毎回、初めましての気持ちでいてください』とだけ伝えました」
――それであの説得力はすごいですね
研「何もしてないんですけどね(笑)。でも、そうやって覚悟を決めたら、かえってすごく楽でした」
岡﨑「いやいや、『何もしていないように見えて、何かが滲み出ている』のが研さんのすごいところなんです」
――中尾有伽さんとの共演シーンではどのようにコミュニケーションを取っていきましたか?
研「あんまり話してないです。むしろあえて話さないようにしてました。距離を縮めると、感情が乗ってしまうから。私は認知症のおばあちゃんとして、あくまで"孫の記憶を失っている状態"でいようと決めていました」
岡﨑「あるシーンで、『久しぶり』と言う孫に『はじめまして』と返す場面があるんですが、そのときは研さんに『テレビ局でADさんに"ご無沙汰してます!"って言われるけど、誰か思い出せないことありますよね?』と伝えて、現実にあったような感覚で演じてもらいました(笑)」
研「そうね。しょっちゅうあるので、やりやすかったです(笑)」
――加那と外出するシーンは、紀江にとってもきっと大きな転機になったのではないかと感じました
研「そうですね。孫が外に連れ出してくれて、いろんなことを見せてくれたんです。おばあちゃんも、きっとすごく楽しかったんじゃないかなと思います。刺激をたくさん受けて。で、どこかのタイミングで、それが細胞や頭を少しずつ動かして、ちょっと戻ったんじゃないかなって。だから、外に出るっていうのは本当に大事なことだなと思いましたね。たとえば回転寿司のシーンでも、先に取っちゃうとか、食べ物を口に運ぼうとして止められるとか、そういうちょっとしたハプニングがある場所に連れていってもらうだけでも、お年を召して車椅子の生活になっても、孫や若い人たちにそうやって連れ出してもらえたら、気持ちがすごく明るくなると思うんです。たぶん、おばあちゃんも内心では『楽しいな』と思ってくれていたんじゃないかなって。そういう時間って、必要だなと感じました」

(C)役式
――改めて、研さんは9年ぶりの映画主演とのことですが、改めて振り返ってみていかがですか?
研「あんまり関係ないかな(笑)。デビューして何年とかも、自分では意識してないんです。『よく頑張ったね』とか『記念に』とか言われても、なんかピンとこなくて。それより、今の自分がどうか、ちゃんと役に立ててるか、ちゃんと生きてるかのほうが大事」
――素敵な考え方ですね
研「『何年やったから何が偉いの?』って思っちゃうんです。自分の中で、人としていろんなことが成長したり、自分の芸が深まったりして、『ああ、ここまで来たんだな』『何年かかったんだろうな』って振り返るならまだわかるんですけど、『素晴らしいですね』なんて言われても、全然素晴らしくなんかないし、私はそう思ったことが一度もない。納得したこともないし、満足したこともないんです」
岡﨑「まさに、そこがこの映画の核だったと思います。時間や年数じゃなくて、目の前にいる誰かとちゃんと向き合うこと。そのリアリティを、研さんの存在がすべて担ってくれました」
――お二人は本作が初対面だったとのことですが、お互いの第一印象はいかがでしたか?
研「最初に会ったときはね、『この監督、大丈夫かな?』って(笑)。若いし、ちょっと頼りなさそうに見えたの。でも、裏庭にプールがあるロケ地で、(永)太一郎くんたちも交えてみんなで話してるうちに、『ああ、意外としっかりしてるのかも』って思って。で、途中から冗談も交えて話してくれるようになって、徐々にほぐれていきました」
岡﨑「いや、本当に最初はもう緊張しっぱなしで。主演女優の研さんを目の前にして、どう接すればいいんだろうってガチガチだったんですけど、研さんが『いくつまでいけるの?』ってボケてくださって(笑)。僕、実はその質問が来るかもってシミュレーションしてて、『69歳くらいですかね』って答えたら、すかさずツッコんでくださって。『あ、この人には素直に会話していいんだ』と思えて、すごく救われました」
研「本当、バカなんですよ、この二人(笑)」
岡﨑「そのときは僕も天才的な返しができたなって思っております(笑)」
――最後に、この映画を通して伝えたいメッセージをお願いします
研「やっぱり"家族の力"ですね。誰かに連れていかれて、誰かと一緒に笑って過ごすだけで、気持ちはちゃんと動く。年をとっても、認知症になっても、人は変われるし、思い出すことだってあるかもしれない。だから、誰かを忘れてしまっても、誰かが思い出してくれたら、十分なんじゃないかと思います」
岡﨑「本当にそう思います。忘れられてしまうことより、自分が"忘れていた"ことのほうが、実はずっと怖い。そんな気持ちに気づいてもらえる作品になっていたらうれしいです」

(C)役式
取材・文=川崎龍也
映画情報
『うぉっしゅ』
全国公開中
出演:中尾有伽 研ナオコ 中川ゆかり 西堀文 嶋佐和也(ニューヨーク) 髙木直子 赤間麻里子 磯西真喜
監督/脚本 岡﨑育之介
企画:岡﨑育之介 音楽:永太一郎
(C)役式 配給:NAKACHIKA PICTURES
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