名優・藤田まことが「剣客商売」で見せる、芝居の緩急で表す軽やかさ【無料放送】
2023.3.4(土)
数多くの代表作を遺した名優・藤田まこと。現代劇、時代劇、コメディー、ヒューマンドラマ、サスペンス、刑事ものなど、彼が息を吹き込んだ役は数えきれない。ドラマ「剣客商売」(1998年~2010年、フジテレビ系)での秋山小兵衛役もその1つだ。藤田が名優たるゆえんの1つは芝居の緩急の素晴らしさであり、特に秋山小兵衛役における芝居の緩急は絶品。他の作品では見られない"軽やかさ"を感じることができる。

同ドラマは池波正太郎の時代小説を実写化したもので、無外流の老剣客・小兵衛と小兵衛の後妻・おはる(小林綾子)、先妻との息子・大治郎(山口馬木也)、女剣客・佐々木三冬(寺島しのぶ)らが、江戸を舞台にさまざまな事件を剣で解決する姿を描く人情活劇。
小兵衛は、剣の達人でありながら小粋な人物で、息子より年下で40歳も年の離れたおはると再婚して隠居生活を気ままに楽しんでいる人物なのだが、藤田は軽やかに爽快感あふれる芝居で表現。例えば、おはるとのシーンでは、おはるが若いからこそ、ともすれば"いやらしさ"が出てしまいかねない部分にもかかわらず、軽やかさを多分にまとった芝居で"いやらしさ"どころか"可愛らしさ"までも感じさせるほど。また、そこが生真面目な大治郎との差異にもなっており、役だけではなく作品全体への効果ももたらしている。
そんな"小粋さ"が特徴の小兵衛の芝居において、事件に巻き込まれた瞬間や敵と相対する殺陣のシーンなどで見せる"剣の達人"としての一面が出る瞬間こそ、最も彼の芝居の緩急を味わうことができる。
時代劇専門チャンネルで3月5日(日)に無料放送される「剣客商売4」の第5話では、小兵衛らが旧知の人物である浅田忠蔵(金田明夫)を助けるべく浜松に向かうという内容で、浜松の旅籠での女中・おさきとのやりとりと、忠蔵を取り巻く状況が見えてきた時の表情や捕らわれた忠蔵を助け出すシーンとのギャップがたまらない。
デレデレと尻に敷かれているような一面と、剣で敵を(峰打ちだが)一刀両断する姿の演じ分けこそが、藤田が小兵衛に付与したキャラクターの深みにつながっている。さらに言うと、同じ役でありながら両面をガラリと切り替えるこの芝居の緩急が作品に軽快なリズムを生んでおり、藤田の役者としての真骨頂といえるだろう。
池波正太郎が描く人情物語に心震わせながら、藤田が芝居の緩急で表す"軽やかさ"も感じてみてほしい。
文=原田健
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