「私の解放日誌」のソン・ソックから艶っぽさが滲み出る！生々しい空気感が想像力を掻き立てる30代カップルの会話劇

2023.8.17(木)

今年2月に40歳という節目を迎え、韓国で"遅咲きのブレイク"ともいえる人気を爆発させているソン・ソック。特に「私の解放日誌」(2022年)で演じた"ク氏"の謎めいた存在感は大きな反響を呼び、ドラマと同時期に公開された映画「犯罪都市 THE ROUNDUP」(2022年)でもその演技力が高く評価されるなど、40歳にして新作オファーが相次ぐ最旬スターとして注目を集めている。

韓国では女性芸能人がこぞってファンを公言しており、ソックの魅力はじわじわと海外へも拡大中。そんな彼の"ラブコメ演技"が話題を呼んだ映画「恋愛の抜けたロマンス」(2021年)がスターチャンネルにて放送される。どこか陰影ある役柄のイメージが強かったソックが恋愛下手な文系男子を好演し、新たな魅力を開花させた作品だ。

物語の主人公は、仕事も恋愛も思い通りに進まない29歳のジャヨン(チョン・ジョンソ)と、恋も仕事もイマイチ押しの弱い33歳のウリ(ソン・ソック)。元カレとの最悪の別れから体だけの割り切った関係を望むジャヨンと、勤め先の雑誌編集部の編集長から19禁コラム執筆を命じられてネタを探すウリがそれぞれデートアプリに登録。アプリを通じで出会った2人は、"恋愛抜き"という曖昧な距離感のままデートを重ねていく。

もともとウリは小説家を目指していた文学青年。繊細で周囲に押し切られやすいタイプで、編集部の先輩に二股をかけられていたことを知っても、ただ心の中で落ち込むばかり。およそラブロマンスの主人公とは思えないウリの、猫背とボソボソした語り口、遠慮がちな笑い方が何ともリアルだ。

一方のジャヨンは、失恋以来、恋愛への過度な期待は捨て、ポッドキャスト番組の制作に邁進中。女友達に「もう恋愛なんて感情労働はしない」「アプリなんかの世話にはならない」と宣言をしながらも、一人になれば疼く体を持て余す、これまたリアルなヒロイン像だ。

互いの本心を隠して始まった"恋愛放棄カップル"のデートは、初めのうちはベッドの上ではなく、しっぽりと吞みながら繰り広げられるウィットに富んだ恋愛トークがメイン。このお酒を交えたやりとりがとにかく艶っぽい。

ちょっと酔いが回ったようなトロンとした視線が絡み合い、ふわふわした甘いセリフ回しで「クズだった男1位は？」「なぁ、俺って下手？」とお互いの恋愛観から体の相性まであけすけに語り合う。"恋愛抜き"と言いながら、自然と溢れる笑顔と軽口の数だけ接近する2人の心。どんなラブシーンよりもかえって観客の想像力を刺激する、艶めかしいデート描写だ。

そんな2人のデートをそのまま書いたウリの恋愛コラムは大評判。劇中には、ウリのコラムを「セックスのないセックスコラム」「ぎこちない男女が猫のように警戒しつつ近づき、ヘビのように食らいつくかと思いきや...すべてを見せないのがエロの極意」と編集長が絶賛するシーンが登場するが、ウリとジャヨンの関係もまさにそんな感じ。2人のリアルな空気感、そして"見せない美学"がかえって2人の関係を想像させる。

「面白いのは付き合う前の微妙な関係でしょ？」と編集長は言う。だが後半にいくにつれ、互いを求め合うウリとジャヨンの関係は歯止めが利かなくなっていく。前半焦らされただけに、ソックとジョンソがともに大胆なイメージチェンジを図ったラブシーンが実に効果的だ。

韓国では口コミで動員を増やし、第58回百想芸術大賞では4部門にノミネートされるなど、高い評価を得た本作。ラブコメ演技で新たな魅力を開花させたソックのリアルな独身30男像もクセになる注目作だ。

文＝酒寄美智子

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