星組トップスター・礼真琴が満を持して挑んだ「ロミオとジュリエット」('21年星組・宝塚)
2023.8.6(日)
2021年に上演された星組「ロミオとジュリエット」は、2010年の星組初演以来、2011年雪組、2012年月組、2013年星組と再演が重ねられてきた人気のフレンチロック・ミュージカルである。
8年ぶりの再演では、主要キャストの多くが役替わりし、出演人数減員のため出演者の一部も2チームに分かれ、AとBの2つのパターンで上演された。
主演の星組トップスター礼真琴は、プレお披露目公演の「ロックオペラ モーツァルト」、今年3〜4月の「Le Rouge et le Noir〜赤と黒〜」、そして絶賛上演中の「1789」と主演している、フレンチロック・ミュージカルの申し子のようなスターだ。
「ロミオとジュリエット」においても、2010年の星組初演では入団2年目にして演じた「愛」の可憐さが注目され、2013年には初演と同じ「愛」とベンヴォーリオの2役を役替わりで演じてみせた。
そんな礼が満を持してロミオ役に挑む。その魅力は、良い意味での「身近さ」ではないかと思う。育ちが良くて見目も麗しく成績優秀な人気者。少なくとも学年に1人ぐらいはいそうな少年が突然激しい恋に落ち、あっという間に哀しい結末を迎える。礼ロミオはそんな人生の真実を突きつける。これは確かな技術力と経験値の成せる技でもある。
また、この再演で特筆すべきは、舞空瞳演じるジュリエットの「強さ」だろう。迷い続ける男たちの中で唯一ブレない存在でもあるジュリエットは、初々しさと安定した実力という、相反したものを求められる難役だ。舞空ジュリエットはこの2つを共に満たす稀有な存在だったと思う。
Roméo & Juliette Le spectacle musical de GÉRARD PRESGURVIC D'après l'œuvre de WILLIAM SHAKESPEARE ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ
Bパターンで話題を呼んだのは、愛月ひかるが演じた「死」である。その空間支配力が半端なく、「エリザベート」のトートを彷彿とさせるものがあった。「死」が登場するだけで舞台上の温度がぐっと下がるような感じがした。Bパターンのロミオは、この「死」と向き合い、あらがい、敗北する。
ティボルトも両パターンで違う。Bパターンのティボルト(瀬央ゆりあ)は端正な面差しの中に抑えきれない熱情がほとばしる。Aパターンでは愛月ひかるが演じた「冷静」のティボルトに対し、いわば「情熱」のティボルトといったところだろうか。
Bパターンのモンタギュー3人組は兄弟に例えると、長男ベンヴォーリオ(綺城ひか理)、次男ロミオ(礼真琴)、三男マーキューシオ(天華えま)である。いつもふざけているが刹那的なところのある三男と、真面目で心優しい次男、対照的な2人を賢くてしっかり者の長男が見守るという構図だ。
パリス(極美慎)は、鷹揚で余裕たっぷりなところが嫉妬混じりに「まぬけ」と称されてしまうイケメン貴公子である。絞り出すような歌声から苦渋と悩み悶える様を表現するヴェローナ大公(遥斗勇帆)、少々抜けたところがあるピーター(輝咲玲央)など、そのほかの役替わりメンバーも持ち味を活かした人物像を作り込んできていた。
役替わりのない人たちもこれまでの積み重ねの上に、演者の個性を重ねて新たなキャラクターを生み出していた。
有沙瞳の乳母は、昔ステキな恋をたくさんしたのだろうなと感じさせる艶っぽさを感じさせた。天寿光希のキャピュレット卿は俗な感じと小人物感の出し方が絶妙だ。英真なおきのロレンス神父は、策に溺れた人間の愚かささえも感じさせる神父だった。
この公演は東京公演のBパターンの上演期間中に、緊急事態宣言による公演中止があり、無観客ライブ配信が急遽実施されるという波乱の公演でもあった。
文=中本千晶
放送情報
ロミオとジュリエット('21年星組・宝塚)※B日程
放送日時: 2023年8月13日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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