南沙良が女優デビュー作で見せた存在感!浅野忠信、田中麗奈らと共演した「幼な子われらに生まれ」での複雑な心情表現
2023.7.11(火)
今年3月30日に配信開始された「君に届け」。アニメ・実写はもちろんゲーム化もされてきた大人気コミックを原作とするドラマ版では、南沙良が主演を務めている。2018年の初主演映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」でブルーリボン賞新人賞を受賞。日曜劇場「ドラゴン桜」(2021年)でさらなる注目を集め、2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では源頼朝の愛娘・大姫を好演したことも記憶に新しい。まだ21歳と若手ながら、女優として目覚ましい成長を見せている。
そんな彼女のデビュー作となった映画が2017年の「幼な子われらに生まれ」だ。本作は、直木賞作家・重松清の同名小説をもとにするホームドラマの秀作。「共喰い」(2013年)をはじめ幾多の名作を手掛けてきた脚本家・荒井晴彦と、「繕い裁つ人」(2015年)や「少女」(2016年)などで知られる三島有紀子監督により実写化された。第41回モントリオール世界映画祭にて審査員特別大賞に輝き、第42回報知映画賞では監督賞と共に田中麗奈が助演女優賞を受賞するなど国内外で高い評価を受けた。
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
バツイチ同士で再婚した田中信は、一見良きパパを装うサラリーマン。妻・奈苗の連れ子である姉妹との親子関係はうまくいかず、元妻との間にもうけた実の娘と3ヶ月に1度会うことを楽しみにしながらも、悶々とした日々を過ごしていた。やがて奈苗が妊娠したことをきっかけに、血のつながらない長女が「本当のパパに会わせて」と言う。
今の家族に息苦しさを覚え始めていた信は、怒りと哀しみを抱えたまま半ば自暴自棄で奈苗の元夫・沢田と会う決心をする。バツイチ同士で再婚し、新たな家庭を築くことに悪戦苦闘する夫婦や親子。複雑な人間模様が浮き彫りにされ、本当の家族とは何かを問いかける。仕事よりも家庭を優先し左遷までされてしまう悩める父親・信に浅野忠信、男性に寄り添いながら生きる専業主婦の母親・奈苗に田中麗奈、姉妹の実の父親に宮藤官九郎、信の元妻は寺島しのぶと日本の映画界を担うキャストが集結した。
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
錚々たる顔ぶれが揃う本作が女優デビューとなった南は、血のつながらない長女・薫役に起用された。揺るぎないはずの世界が失われた戸惑い、何者かへの嫌悪感...今にも爆発しそうな複雑な心を、不満げな表情と傷ついた鋭い目つきで物語る。
信が父親らしく関わろうとすればするほど苛立ちは募り、何も知らない妹と一緒に無邪気に甘えることも、信の血のつながった娘のように本当のパパに会うこともできない。なぜ自分だけがこんなに苦しいのか、自分でもどうしたらいいか分からないけど、分かってほしい。危うげに揺れる繊細な少女の心を、飾らず素直に表現した。
薫として怒りや悲しみ、言い表せない感情を抱えながら必死にもがく姿は、南のその後の飛躍を予感させる。演技は未経験ながら、浅野や田中ら実力派による芝居を受け、自身の内に秘められていた瑞々しい感性が研ぎ澄まされていくようだった。ドラマや映画の他にも、洋画の吹き替えや展覧会の音声ガイドナレーションに挑戦するなど、多彩な活躍を見せているが、南が本作で見せたダイヤモンドの原石のような煌めきが眩い。
文=中川菜都美
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